国語の教科書に載っていた話をひたすら思い出す〜『温かいスープ』〜
今回紹介するお話は…
今道友信『温かいスープ』
全文はこちら。
皆さんは、今まで読んだ本の中で、最も美味しそうだった料理は何ですか?
筆者は迷わず『温かいスープ』に描かれたオニオングラタンスープだと答えたい。
思い出せばそれを初めて読んだのは中学校の国語の授業中で、朗読する生徒の声から語られる、第二次世界大戦後という少し重めな時代背景が印象的でした。
主人公はパリにいて、日本人だから下宿も見つからず貧乏な暮らしをしていました。
それは当時香港から帰国し、転校したばかりの除け者だった私の心情にぴったり寄り添い、主人公へ感情移入することはそう難しくありませんでした。主人公は月末になるとお金に詰まるので、いつも通っているレストランの一番安いオムレツだけ頼んで帰ります。
「恥ずかしいなあ〜私だったら恥ずかしくて通えなくなるなあ〜」なんて、授業中に思った記憶があります。
そのうち事情を察したお店の娘さんは、主人公にパンを一枚サービスしてくれる様になります。それから毎月、月末になるとパンを一枚サービスしてくれます。
その何ヶ月後のことです。また月末がやってきました。非常に寒い夜で、雹まで降っていました。主人公は相変わらず涼しい顔でオムレツだけを頼み、隣のお客さんが美味しそうな肉料理を食べてるのを横目に見ながら料理を待ちます。そして、やってきた料理は…
「オニオングラタンスープ〜どっしりパンと盛り盛りチーズをのせて〜」
※料理名は筆者の妄想です
「お客さまの料理を取り違えて、余ってしまいました。良かったら召し上がってくださいませんか?」と、白髪のおかみさん。
こんなサービスをされて、感動しない人がいないわけがありまけん。「私」はどっしりしたオニオングラタンスープをひとさじひとさじかむようにして味わう。その描写は間違いなく、世界一美味しい料理そのものでした。
私は空いたお腹を抑え、どうにかそれを鳴らさないように気をつけながら、昼休みが来るのを首を長くして待ちました。
その空腹は、物理的な空腹というよりも、一種の優しさや愛情への空腹だったのかもしれません。オニオングラタンスープは何と言っても、優しさで温められたスープだったのです。当時中学生の私は、オニオングラタンスープというのはスープだけど、冬のお腹の空いた夜に食べる温かい料理で、噛むようにして味わうものなのだと知りました。田舎で近所にイタリアンと呼べる店がガ○トくらいしかなかったのですが、絶対そのオニオングラタンスープとやらを食べてみたいと思ったのです。そして、それをひとさじひとさじかむようにして食べようと思ったのです。
おしまい
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