文鳥とピアノ

少しだけお付き合いください

「プロフェッショナル仕事の流儀 庵野秀明SP」ークリエイターとは何かを問う

テレビは全く観ない筆者ですが、アマプラにも飽きてきた頃に

NHKオンデマンドに加入しました。毎月1日課金なのでタイミングとしては丁度良かったです。

元々『100分de名著』目当てで加入したのですが、港で噂の庵野秀明スペシャルが気になって観てみましたので感想をだらだらと書いておきます。

 

庵野秀明の名前を知ったのは大学3年の頃でした。

当時仲良かった友達が新世紀エヴァンゲリオンの大ファンで、それはもう家にはエヴァの漫画が並びアスカのフィギュアが並び、ニワカには気安く語られたくない作品としてエヴァを心の中に大事に仕舞っているような人だったのです(このようなエヴァンゲリオン廃人はどのような青年の集まりにも必ず一人はいる)。

結果として私はその影響を受け、「一般常識としてエヴァンゲリオンを知っている」レベルから「エヴァンゲリオンが好きなニワカのオタク」に成り上がりました。

当時彼に勧められた『アオイホノオ』を読み、庵野秀明というエヴァを作った人について知りました。

 今回の特集は『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』公開に向けて制作されたドキュメンタリで、取材期間は4年。4ヶ月ではなく、4年です。果たして今までこれほど長い期間をかけて密着した番組はあるのでしょうか。内容としてはひたすら庵野監督が作品を制作している様子と現場の地獄絵図を撮影した物なので、アニメ、映画に興味がない方にはつまらないかも知れません。

まず、取材を担当していた久保田暁ディレクターが優秀なのが素人目でも分かります(小並感)。

エヴァンゲリオンという国民的アニメのディレクター(自由人で神出鬼没、気まぐれでなかなか心を開かない使徒のような人物)を取材するに当たり、きっと番組の表では見えないような努力と苦労を積み重ねられたはずです。しかも4年間も。

最初は言葉も物理でも距離が遠かった庵野さんが、1年経ってようやく食事に誘ってくれて、編集中に意見を求めるほど距離を縮められました。

撮影中は『僕を撮っても意味ないよ』『もっと現場の様子を入れて』などと注文をつけ、熱海合宿の取材では『嵐が一番激しい時に外で撮ってこい』と指示をするまでです。いや、あなたNHKのディレクターじゃないでしょ(笑)。そんな無鉄砲な使徒みたいな人を撮るのは視聴者には想像できない程の苦労が多かったと思います。その過酷だと思われた取材を通してでも、庵野監督を目の前にして怯むことなく?視聴者が気になる質問をしてくれたことは素晴らしいと思います。例えば今回のシンエヴァは今までの劇場版から作り方をガラッと変えているのですが、その理由の一つに庵野監督は『絵コンテだけでは自分のエゴが出過ぎてしまう、アニメは肥大化したエゴの塊だ』とお話ししてました。なるほど、確かにシンエヴァは今までの分かりにくい庵野ワールド丸出しのエヴァとは思えないほど、視聴者に寄り添った作品になっています。筆者は意味のわからないエヴァの方が好みだったりしますが、それはさておき…それで取材した女性は『なんでそう(今までのエヴァが肥大化したエゴだと)思われたんですか?』と質問しました。それに対して庵野さんは『内緒。』と答えてくれませんでしたが、きっと大事なことだから話せなかったのだと思います。肝心はことは口に出さず、口に出すことはコロコロ変えるところが庵野さんにはあるんだなと見ていて思いました。あとは恥ずかしいと思ったことも口に出しません(笑)。そういうところがアスカ(宮村優子さん)に「少年少女」と評されるのかも知れません。

 

ところで、この庵野秀明SPは通常の75分版とBSで再編集した100分版『さようなら全てのエヴァンゲリオン』があります。どちらも庵野秀明という人物を上手く引き出せていると思うのですが、前者はより彼の異質さに、後者は庵野監督の作品への真摯さが現れています。当たり前かも知れませんが拡張版の方がより深掘りがされていて、編集も面白いです。

 

最後のシーンで試写会が終わって、制作の方々が涙ながら『面白かった』『やって良かった』と階段から降りてきます。きっとクリエイターは、この瞬間のために生きているのだと、そう感じられる作品でした。