生々流転

少しだけお付き合いください

夢千夜

夢日記というものを小さい頃は付けていたものの、日記という作業の煩わしさや毎年増えていく日記帳の管理、毎朝砂金を振るう作業のように寝ぼけながら断片的な夢を辛うじて文字に起こす苦行に耐えられなかった。

それでもやはり夢から逃れることはできない。現実でふと過去に見た夢が刹那的に浮かんできたり、記憶と夢が混交して頭を悩まし、デジャビュの正体を気になって仕方なく、ひいては現実で解決できない問題の答えのようなものを私は夢の中で無意識的に探していることに気づく。

さて、ここに溜まりに溜まった夢を吐き出すことにした。二日酔いのような吐き方ではなく、できるだけ丁寧に、慎重に、コーヒー豆の選別作業のように書いていきたい。嘘は本当に苦手だし、どちらかというと本当の事だけ考えて生きていきたいのだ。

 

 

その一

 

古いアルバムをめくっていた。そこには過去に付き合っていた恋人の写真や、見知らぬ人の名前、仲良くしていた友人が卒業時に送ってくれたメッセージが書き込まれていた。卒業アルバムのようだが、それにしても時系列がバラバラ過ぎる、思い返せば名前が顔に合っていない。田村が西山になっているし、知り合いの名前の上で知らない女の子の写真が載ってる。辞書のように分厚く、両手で抱えるのがやっとだった。私は低い書架の隣に立ってそれをめくっていた。周りはぼんやりとした黄色い光に包まれている。光のせいでアルバムの中身が良く見えないし、私はどうやら何かを探しているようでひたすらページをめっくては翻していた。それでも肝心な情報は一つも得られなかったようだ。

やがて隣に佐々木さんがやってきた。佐々木さんは私が中学の頃に仲良くしていた友達で、数少ない友人の一人だった。活発な子で、肩まで真っ黒な髪を伸ばしている。気が強い子だったが、そのせいか私と同じくらい世渡りが下手だった。好きな作家は星新一で嫌いなものはトマトジュース。私服のシャツとズボンを着ているけど何一つあの頃と変わりやしなかった。

「こんなところで何をしているの」と彼女は聞いた。彼女は私から三歩離れたところで、私の持っているアルバムを眺めた。

「探し物だよ」私は声にならない声で言った。実際声に出てたのは「あうあうや」のような不明確な言語だったのだ。私は少しだけ恥ずかしくなったが、その言葉は彼女にはちゃんと理解できたらしい。

「何を探しているの」彼女の声ははっきり私に届いた。彼女はうまく喋れるようだ。

「それはよくわからないんだ、でも兎に角この中にありそう」私は独り言のように呟いて、アルバムの文字と思わしきインクの痕跡を睨んだ。穴が開く程、目を見開いて見ても全体に薄い油紙が被っているようだ。それでも偶に読める箇所があるのは不思議なものだった。

「君こそ、ここで何をしているの?ここは僕の夢の中だよ」

彼女は特に驚かなかったようだ。私も勿論驚かなかった。それは始めから分かっていたことで、私はそれを彼女に言うべきだった気がしていた。

「佐々木さんは僕の夢の中で僕に話しかけているんだ。気付いてないの?」

彼女は少し歩み寄って、私の手の中のアルバムに手を添えながら読み始めた。あまりにも熱心に読むので私はそれを彼女に引き渡した。

「そうでしょうか」彼女は目をページから離さずに呟いた。「あなたが私の夢の中に居るのかもしれないよ。それにあなたが見ているのは本当の私なの?

私は言葉を失って彼女を見詰めた。本当に佐々木さんと瓜二つの女の子だ。しかし佐々木さんは私に敬語なんて使わない。今目の前にいるの彼女の姿をした何かなのだ。そのようにして私をからかうはずがない。私の目も前の彼女は誰なのだ?そして

 

「じゃあここは、一体誰の夢の中なんだ?」

最後の一言を言う間もなく、私は夢から覚めてしまった。そこにある天井は、まるで他の世界にある、他の誰かの部屋のものに見えた。

 

 

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