生々流転

少しだけお付き合いください

手をはなそう

男は冬があんまり好きじゃない。

枯葉の匂い、透きとおる風、空と木のコントラストの全てがほかの季節と同じくらい趣深いけれど、なんとなく訳のない気だるさに見舞われることが多かった。朝起きると鈍い光がカーテンの隙間から漏れ出て、重い布団が体に負い被り、手や頭を少し動かしてみると、一日の終わりのような始まりを迎える。

 

大学を卒業し、やっとの思いで希望の職種に就くことが出来た。不眠の街をふらふら歩きながら空いたビール缶を振らし、プログラミングされたように見知らぬ夜道を辿って帰る毎日だ。夢とうつつがはっきりしないままベッドに潜り込み、何度も死んでは生き返る。

 

鉛のような体をベッドからずらし、頼りない両足を床に着けた。クローゼットの引き出しから黒いトレーナーを引っ張り出し、そのままパジャマの上に被せる。朝飯を食べるのも億劫なので、湯沸かし器を途中で止めたぬるま湯を胃に流し込む。暑くも冷めてもいない液体が身体中に広がり、腹が少し重くなる気がした。光の射す方を一瞥し半開きのカーテンを閉めるか開くか迷ったが、そのままにしておいた。6畳の部屋は明るくも暗くもなく、青色がかったねずみ色に見えた。

 

近くから中学校の予鈴が聞こえた。時刻は9時ちょうどで、もう会社に間に合う時間ではない。テレビを付けてみたが、近頃同じニュースばかり流れている。どこの誰かが死んで、偉い人が失脚して、春一番がどうのこうの。でもそんなことも、やがて全ての人間に忘れられるだろう。

男はテレビを消し、再びベッドに倒れ込んだ。